渡哲也さんと肺気腫

俳優の渡哲也さんが肺炎で亡くなったと報道があった。

肺気腫を患っており闘病中であったという。肺炎を重症化させた肺気腫とはどのような病気なのであろうか。

 

肺はそもそも酸素を取り込み二酸化炭素を吐き出す臓器である。

口から気管、左右の気管支に分かれていき、どんどん気管支の枝は細くなっていき、最終的に「肺胞」という袋のような場所にたどり着く。

ここで吸い込んだ空気と、「間質」という肺胞の組織の中にある血管との間で、酸素と二酸化炭素のやりとりを行っている。

酸素は血管の中に入り全身の臓器に配られる、また、二酸化炭素は吸い込んだ空気とは逆方法に口から吐き出される。

こうして体の臓器機能は維持されている。

 

肺気腫は、主に喫煙などが原因となり、肺に慢性的な刺激が加わることによってこの「肺胞」という場所の壁が薄くなり、ついには破けて壊れてしまい、隣の肺胞とつながり、ぼこぼことした袋(嚢胞)が連なったような状態になってしまうことをいう。

こうした肺の組織の障害を直接治すような治療方法は現時点で存在しない。

 

また、肺気腫の人は喫煙などによって気道に慢性的に炎症が起きていることが多く、慢性気管支炎を合併している。これらを合わせて、慢性閉塞性肺疾患COPD)という名前で呼んでいる。

名前の通り「閉塞性換気障害」という呼吸障害を起こす。

 

COPDの何が問題かというと、弱ってしまった肺組織のせいで二酸化炭素をうまく吐き出せないことである。

二酸化炭素は血液に溶ければ酸性となる。私たちの体は酸性とアルカリ性のバランスをいつもある程度一定に保っているから、他の場所でバランスを直さなくてはならなくなるし、臓器も酸性の状況ではうまくはたらかなくなる。これが最も重症化すると、呼吸不全を起こして命にかかわってくる。

 

また、COPDでは肺がもともと障害されていることから肺の感染症にかかりやすくなるし、普通の人よりも重症化しやすいといえる。

これが一番問題になってくるであろう。喫煙などで慢性的に気管支の壁は炎症を起こし、痰はたくさん出ており、空気もうまく吐き出せない状態のところに細菌やウイルスの感染も加わったら、ひとたまりもなく、うまく治せなくなるということである。

実際に弱った肺に重症の肺炎を起こしお亡くなりになる人も多くいる。

 

そのため、COPDの人には早期からの喫煙と、呼吸の仕方のトレーニング(肺のリハビリテーション)、肺炎球菌やインフルエンザウイルスのワクチン接種などがすすめられている。

気管支を広げて呼吸を楽にするための吸入薬も使われることがある。

これらは全て、COPDを「治す」わけではなく進行を遅らせたり、症状を和らげるための治療である。

 

ただ、中には喫煙を続けたり、重症化する人も多く、ついには酸素を取り込む力も低下するので、酸素を発生させる機械を買って鼻からチューブで濃度の高い酸素を直接送り込む在宅酸素療法(HOT)が行われることがある。

 

肺の繊維化を直接治すための薬の開発も進んでいるが、標準的な治療法とまではなっていない。私たちにできることは喫煙などの生活習慣を見直し、罹患した場合でも早期に禁煙をすることであるといえる。